■どのように活用されているのか まず教育の分野では,学級担任の先生が,朝の会や帰りの会,学級会(学活の時間)のときに,子どもたちの実態に応じてSGEのエクササイズを実施しています。さらには,学級経営の年間計画に位置づけてSGEを組み込んで1年間全体を見通したプログラムを作っている場合もあります。 また授業では,教科に応じてSGEのエクササイズをアレンジしたり,グループ学習や総合的な学習でのグループのつながりを高めるために実施したりしています。そのほか,道徳や進路指導に取り入れたりしています。これらの具体的な展開例については,書籍が多く出ていますし,もし詳しいことが必要でしたら,あらためてご質問いただければ幸いです。 なお福祉・病院の分野での活用の詳細は存じ上げず,確かなことが申し上げられません。
■SGEはどうやって教育現場のニーズに応えるのか 教育現場のニーズをSGEがどうして満たすことができるのか,長くなりますが,まとめてみたいと存じます。 ●SGEのねらいと実際 SGEは「ふれあい体験による自己啓発」をめざしています。もう少し言葉を足すと,「@本音と本音のふれあい体験を通して,A他者理解・自己理解を深め,B人生を再検討し自ら切り開こうとする人生態度で踏み出すことができる」ことをめざしています。 具体的には以下のようなことを行います。1人のリーダーの指導(インストラクション)のもと,数人から数十人のグループで,グループ作業(エクササイズ)を体験しては,そのとき感じたこと・今感じていることを率直に語り合う(シェアリング)ことを,繰り返していきます。本来なら,2泊3日,3泊4日の合宿形式で集中的に行われますが,学校では授業や特別活動に,細切れにして取り入れられています。 ●なぜ教育で役立っているのか(SGEのねらいから) SGEが目標にしている到達点を整理することで,教育で役立つプロセスを示してみます。 @「本音と本音のふれあい体験を通して」について →人間関係を改善する まず「本音と本音のふれあい」とは,自分の生活体験や考え方・感じ方,今思っていることを率直に語り合い,相手に感じていることを語り返すことを通して,対話が深まっていく人間関係のことです。ふれあいこそ生きる喜びの源泉であるとSGEでは考えます。 技術が発達し地方共同体が失われた現在,人間関係が希薄になってます。表面的な人間関係や,同調的な人間関係が多くなったといえるでしょう。そこでまず,本音のふれあいを体験することで,表面だけでない多層な人間関係をもち,同調を求める圧力にノーを言って自分を打ち出す勇気を持てるようになることをめざしています。言い換えれば,他者とのつながり(つながれる可能性)による心の支えを得て,自分らしさを実感できるようになる,自己疎外からの脱却です。 さて学校では,子どもたちがトラブルをよく起こし,人間関係の改善が必要であると,現場の先生がたが実感していました。SGEの書籍が一人一人の現場教師によって買い求められたことから,彼らの実感があっての現象と理解できます。 A「他者理解・自己理解を深め」について →集団の教育力で新しい気づきを得る 本音のふれあいが起こると,今まで気づかなかった他者の一面を知ることができるようになります。また,気づかなかった自分一面を他者から指摘されたり,新たな人間関係に直面して揺すぶられたりすることで,「自分って○○だなあ」と自分に対する新たな気づきが生じます。集団の教育力と言われるものです。 この過程では,「本音のふれあいっていいなあ」という人間関係に関連する気づきだけでなく,自分が今抱えている人生上の課題への気づきが生じてきます。この過程がカウンセリングに近い機能です。SGEは特にここに焦点付けするのが特色です。 ところで教育では,必ずしも人生上の課題に気づくことを目的としません。「集団の教育力」を生かしながら,「友達はこのように考えたり感じたりしているのだ」と気づきを深めたり,「自分はこのような面もあるのか」などと,友達像や自己像を拡大・修正することを中心にしています。友達理解や自分理解は心の発達のうえで重要な段階であり,共感性の育成にも役立ち,道徳や生徒指導領域の具体的な指導方法として活用されています。 B人生を自ら再構築する人生態度を追求する「自己啓発」 →人生を意識して選び取る 発見された人生上の課題に対して,どのようにしたいか,どのように取り組んでいくかを検討し,その一歩を踏み出すことがSGEの最終的なねらいです。 自分のあり方を自分で意識して選び直し,人生を自ら構築していく人生態度をもつことを大切にしています。このねらいとしては,「人生とは自らの選択である」という人生観をもつことで,自分が人生の主人公となることをめざしています。ここではまた他者の力を得ることがカギになります。 つまりSGEは,「自分の人生に意識性と責任性をもつこと」「他人の迷惑にならない限り,ありたいように生きる勇気をもつこと」を哲学として,集団の教育力を活用することで,だれもが遭遇する人生上の問題に対処したり,よりよく生きていくための手助けをするものだといえます。 ところで教育では,ここに関連する実践は比較的少ないです。進路指導での実践ではこの段階を見据えた実践があります。 ●「構成的」という特質による教育への活用 ところで上記の説明では,SGEの特色である「構成的」に関していくつか抜けました。構成とはSGEが上記@ABを実現するために,リーダーが参加者に与える枠のことです。 @本音を語るためのルール 普段はしまい込んでいる本音を表現するには,不安や抵抗を感じるものです。そこで参加者が安心して本音を語れるために,リーダー(学校の場合は教師)はプログラムを工夫したり,ルールを定めたりします。特に「人の話を聞く」「自分のことを話す」に関するものが多く,相手が話しやすいように,あたたかいコミュニケーションのとり方とあたたかい人間関係を作ることに留意します。 教育では,ここをとらえて,コミュニケーションづくりの体験学習にSGEを取り入れたり,支持的な集団づくりに生かすことが非常に多くあります。 A集団づくりを支える思想 SGEの主脈ではありませんが,SGEを成功させる背景には,「I am OK. You are OK.」「みんな違ってみんないい」という考え方が支えとなっています。 本音を語り合うと,人と自分は同じとこともあれば違うこともあるのが現実です。そこで,違いを認め,お互いに人格を尊重することが必要不可欠になります。このように自他の違いを前提としながらも,かかわりやコミュニケーションをもとうとする,またその喜びに挑戦するのがSGEです。 これは教育では,社会性獲得の原流として位置づけられ,社会性の発達が不十分な子どもたちの心を育てる原理として活用されています。 ●個人を育てるか集団を育てるか SGEはもともと,参加者一人一人の成長のために,一時的に集まった集団にリーダーが働きかけます。 いっぽう教育の場合は,学級や学校など集団が長期にわたり固定しています。そこで,集団自体を「居心地がよく教育力のある集団」に育てるためにSGEを活用しようという志向の先生が多くいます(集団づくり・学級経営と呼ばれる領域です)。必ずしもこれまで述べたSGEのねらいを見渡して実践しているとは限らないこともあるようです。 <管理者AZUMA>