私が初めてA君と出会ったのは,中学3年生の9月のなかば過ぎでした。A君は1年生の頃からしだいに友達となじめなくなり,2年生では欠席が長く続くようになっていました。3年生になる直前,当時の校長先生のすすめで適応指導教室に通うことになりました。
まだ学校に通えていたころも,A君は人と話をすることができなかったり,大勢のなかにいるとほかの人の話し声がうるさいなどと訴えたりしていたようです。保健室に行っても,ほかの生徒が入ってくると,イスの後ろに隠れてしまうほど,人と交わることができなかったようです。
「ようです」というのは,私が転勤してきたのは,A君が3年生の8月のことだったので,これらの話はすべてあとから聞きました。
転勤してきたとき,私は「適応教室に行っている子がいる」と聞いたので,とにかく担任と保健の先生の3人で会いに行くことにしました。
最初は会えないかもしれないと思っていましたが,会って少しだけ話をすることができました。しかし,話している間も,こちらの方を見ることはできず,返事もとても小さな声でした。
A君との最初の出会いは,ほんの数分間の対面で終了でした。
それからしばらくは,なかなか会う機会もつくれないまま,12月になってしまいました。しかし,A君は3年生で進路のこともあるので,「面接練習をするから,学校へ来てみないか」と提案してみました。すると意外にも「練習に来る」という返事でした。
私は,これをきっかけにカウンセリングを始めてみようと考えました。
◎A君を援助するときの目標
自信を持たせる(自分の成長に気づかせる)
人の顔をみて話ができるようにする
卒業式へ出席する
はじめの目標はかなり大雑把でした。担任の先生や保健の先生は,「卒業式なんて無理」という顔をしていました。でも,「ダメでもともと,できればもうけもの」くらいのつもりで始めました。
◎A君を観察して気づいたこと
握手をしても手に力がない
目を合わせられない
声が小さい
廊下を歩いていても,他の人から隠れようとする
体格は,たくましくなってきている
字がきれいであり,それを自覚している
◎A君を援助する方法
おもに雑談をしながら,A君の無意識にメッセージを送る方法を用いる
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