A君は約束どおり12時ごろにやってきました。
「こんにちは」
「こんにちは。来たね,待ってたよ」
「国語の課題やってきたかな?」
「はい」
「えぇ!できたんだ。すごいね。見せてくれるかな?」
A君から宿題を見せてもらいました。
とても上手に書かれています。
「上手な字だね。すごい。完璧に大人の字だね,これは」
「先生よりうまいよ」
前回,A君に課題の説明をしてくれた国語の先生を呼んで,さっそく掲示してもらうようにお願いしました。
「○○先生,見て。上手でしょう」
「大人の字だよね」
これは,前回の体格の話と同様に,A君が成長していることを伝えるメッセージです。
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その後,約束どおり校長室で一緒に給食を食べました。
給食を食べるとき,私は意図的にミラーリングをしました。ミラーリングとは,相手と同じ動作・ポーズをすることで,ラポールを形成する技術です。
また,世間話をしました。これは,私にとっては,A君のリソース探しでもあります。
リソースとは,その人のもっているもの,つまりその人の資源です。
たとえば,能力・興味・関心・既にできていること・やれていること(以上,内的リソース)や,周りにあるもの,親,友だち,ペット,熱中しているもの(以上,外的リソース)があります。
リソースはだれにも必ずあります。解決するためにリソースは何でも利用します。
話しているうちに,A君は演歌が好きなことがわかりました。いつも決まったラジオ番組を楽しみにしていることもわかりました。
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また,私は前回に続けて動物の話をしました。
「ところで,先生は動物が好きって言ったけど,このあいだ,テレビでね,イルカの話を見たんだ」
前回のペンギンの話の流れを汲んで,しばらくは,このイルカの話をしました。けっこう感動的な話なのです。
「動物ってすごいよね。生まれてすぐに立つでしょう」
「動物の親って,子どもが小さいうちはすごくかわいがるけど,時期が来ると,子どもが自立して巣立ちできるようにするんだよね」
「…………」
「子どもも,時期が来るとちゃんと独り立ちするんだよね」
「動物ってすごいよね」
母親からの自立を促したかったので,このような話をしました。
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次に,温泉の話につなげたい思い,旅行の話をしました。
「話は変わるけど,旅行好き?」
「どこに行ってみたい?」
すると,A君はしばらく考えてから答えました。
「函館です」
「えー,函館? シブいね。何で?」
「なんとなくです」
「ほかには?」
「長崎です」
「それもシブいなぁ」
「ほかには?」
「神戸です」
「ん? それってもしかして…… 演歌?」
「やられたなぁ,これは」
二人そろって爆笑でした。まさか,A君からジョークが出るとは思いませんでした。演歌好きのA君ならではです。
「先生はね。温泉が好きなんだ。A君は?」
「そうでもないです」
「雪の中の温泉っていいよ。最初はさ,外が寒いからお湯がすっごく熱く感じるんだよね」
「でもちょっと我慢して入ってると,だんだん気持ちよくなってきて……これがいいんだなぁ」
これは,物事にはしだいに慣れるというメッセージです。
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「あっ,ごめん。先生はすぐ話がそれるんだよね」
「そういえば,このあいだ,女の子が声かけてくれたじゃない」
「はい」
「だれかが声をかけてくれたとき,返事をしてあげないとさぁ,その人のかけてくれた声や気持ちは,受け取る人がいなくなって消えちゃうんだよね」
「人が何かを言ったら答えてあげるのって,その人を認めてあげることなんだよ。わかるかな?」
「わかります」
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給食を食べ終えたあと,給食室まで一緒に食器を返しに行くことにして,ついでに校内を回ってみることにしました。
さすがに教室の前になると,A君は足早になりました。しかし,途中で何回か出会った先生方に,A君は自分から「こんにちは」と挨拶をしました。
この日,3年生は公立高校の合同出願だったため,A君の教室は空いていました。そこで,人のいない教室に入って,学級の様子や掲示してあった個人の目標などを眺めてしばらく話をしました。
時間が来たので,この日はこれで面接を終了しました。
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